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社長の経営日誌

孤高の天才 社長の経営日誌社長の経営日誌 田宮社長が好き勝手に織りなす独白です

FILE No.363

2014.2.22
「 新宿伊勢丹前事件(7) 」

(前回からの続き)
(そんな状況の中で本題の新宿での襲撃事件が起きたんですよね。)
「あの事件が起こったのは新宿だったのか…。 私はあの場所はずっと銀座だと勘違いしていたよ。」

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 ビル・ホワイトは当時の
状況を赤裸々に告白

(あの襲撃は事前に襲撃場所などの手順は整っていたのですか?)
「手引きしてくれた人物がいた事は間違いないよ。 でも、どういう方法で猪木を襲うかはタイガーに任されていたんじゃないのかな。」
(それが警察沙汰にまでなったのは計算違いだったのですかね?)
「そこまで事件がエスカレートしてしまった理由は簡単だよ。タイガーが途中で本気になってしまったからだよ。用意されていた段取りを無視して本気で猪木を襲うとタイガーが言い出したんだ。
当日の朝、タイガーからそれを打ち明けられた私は「そんな事をしたらおまえは日本の警察に逮捕されて強制送還され二度と日本では仕事が出来なくなるぞ」と忠告したんだけど、タイガーは全く聞く耳を持たなかったね。」
(何がシンをそこまで決断させたのですかね。)
「当時、日本に来て日が浅かったタイガーはまだ日本の文化とか法律、習慣をよく理解していなかったんじゃないかな。 それとこれは日本人の責任ではないかも知れないけど、あの当時日本のファンは会場や宿舎のホテル、あるいは移動の列車の中などで我々アメリカから来た選手たちを見ると、何か意味不明の愛想笑いのようなものを必ず見せていたよね。後になってあれは親しみの証しだという事がわかったけど、あの笑いがタイガーには自分たちを小馬鹿にした笑いに見えたんだと思うね。そんな事から日本のファンにプロレスラーの本当の怖さを見せたい、という気持ちになったんじゃないのかな。
最初はタイガーも私も猪木にストリート・ファイトを仕掛ける事はあくまで試合を盛り上げる為のPRとしてやるつもりだったけど、途中から完全にタイガーの気持ちは違っていたね。」
(その真の目的は一体何だったんですかね。)
「やはり、シリーズのクライマックスで予定されていた猪木とのシングルマッチをよりシリアスな形の戦いにしたいというタイガーのプロ意識なんじゃないのかな。」

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 ホワイトはシンをエース
とした外国人軍団の
名参謀を務めた

(そして運命の11月5日を迎えた…。)
「あの日は朝からタイガーは異常なほど興奮していたね。「今日は俺は日本のプロレス界始まって以来の最大のヒール(悪役)になる」という感覚に酔っていたね。
私はそんなタイガーの言葉を聞いて、この男は本気だと思ったよ。
私としては関わってしまった手前、途中から抜け出す事は出来なかったけど何とか無事にこの襲撃が早く終わって欲しいと願ったよ(笑)。
ただ、やる以上は中途半端な形ではなくタイガーを最高のヒールとして猪木にぶつけてやりたいとは思ったよ。
新日本のフロントを怒らせ二度と日本に呼んで貰えなくなってももう後には引き下がれないからね。
(そして伊勢丹前で奥さんと買い物中の猪木さんを襲った訳ですね。)
「私は猪木は一人だと思っていたが…その場には猪木のワイフ(倍賞美津子)と、もう一人小さな男(猪木啓介氏)がいたよ。今もあの光景は鮮明に覚えているよ。 猪木と猪木のワイフは車から降りて来た我々の顔を見て、例の謎の愛想笑いのような表情を見せたんだ。その瞬間、タイガーは何か意味不明の言葉を叫びながら猪木に突進して行ったよ。 私も少し遅れて猪木に掴みかかった瞬間、タイガーは猪木を頭から近くのガードレールにぶつけていたな。 多分、そこで猪木の額が切れたのだと思う。あとは待たせてあった車に飛び乗って逃走するのが精一杯だったね。」
(怖くはなかったですか?)
「そりゃあ怖かったよ! 下手すればその場で日本のポリスマンに逮捕されるかもしれないわけだからね。 私も必死だったけど車に飛び乗った時のタイガーの凄い顔も忘れられないね。」
(襲われた猪木さんはどんな心境だったんですかね。)
「ある程度タイガーが何かを仕掛けてくる事は予測していたけど、まさかあそこまでやられるとは思っていなかったと思うよ。ただ、やられた猪木も本当のプロだよ。
あそこまでやられても文句の一つも言わなかったわけだから。
まあ、これは結果論かもしれないけど、私たちが一緒にいて良かったと思ったね。あの時のタイガーは完全に陶酔して錯乱していたからね。 あそこで止めなければもっと凄惨な結果になっていたと思うしね。」
(この計画の立案者は誰だったんですか? 新日本のフロントだったのか、シン自身だったのか…。)
「私はそのあたりの事は知らないが…恐らくその両方だった可能性が強いね。
新日本のフロントが軽く考えていたアイディアをシンが自分勝手にアレンジして膨らませたんじゃないのかな。」
(あれが試合会場の通路とか、会場前の道路だったらそうインパクトは無かったかもしれませんね。)
「それは間違いなく言えるね。 公衆の場、それも繁華街のデパートの前でレスラー同士が乱闘する、などという事はアメリカ本土でも無い事だからね。
その方法論に関しては当然批判もあったと思うけど、あれによってタイガーのヒールとしての名前が日本で確立された事だけは間違いないよね。」
(31年の歳月を経てあの時代の猪木−シンの一連の抗争をどう思われますか?)
「本当のプロ同士だから出来た戦いだと思うよ。ここに妙な妥協があったら、あそこまでファンを興奮させる事は出来なかったと思う。
私はあのツアーが終わってカナダに帰る時、空港で正直ほっとした気分になった事を覚えているよ。」
(その後、ホワイト選手は二度、別の団体に来日されましたよね。)
「オールジャパン(全日本プロレス)とIWA(国際プロレス)にね。ただ、ニュージャパンに初来日した時の衝撃が大きかったから、そう強烈な印象は無かったね。
ブッチャーの徹底したプロ意識やツルタ(ジャンボ)やキムラ(ラッシャー)の実力には感心したけどね。」
(ホワイトさんから見て今のプロレス界に対する注文は何かありますか?)
「安易な物真似は止めてもらいたいね。 やはりプロレス本来のオリジナルな戦いを尊重し、自分に合ったキャラクターをしっかりと確立させる事だよ。
猪木とタイガーが戦っていた頃の熱気と殺気が今のプロレスにも欲しいと思うよ…。」

       ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

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 「新宿伊勢丹前事件」は
ミステリアスな伝説として永遠に語り継がれる…

貴重なビル・ホワイトの証言、如何でしたでしょうか。
いつか最大の当事者、タイガー・ジェット・シンにこの件について聞いてみたいものですが、もし21世紀の今、「新宿伊勢丹前事件」の再現、つまりレスラー同士が繁華街で乱闘騒ぎを起こしたらどうなるでしょう?
世間は愚かプロレスファンからすら馬鹿にされるのがオチでしょう。
リング外での乱闘を推奨するつもりは毛頭ありませんが、何か夢のない時代になってしまったものだと感じます。
ホワイトの言葉にあるように、あの熱気と殺気があった時代だったからこそ「新宿伊勢丹前事件」はただの茶番に終わらずに成立し今も伝説として語り継がれるのではないでしょうか…。

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