毎年、金田一耕助の事を書いているので今回は金田一と並ぶ日本の名探偵、明智小五郎について触れてみましょう(興味がない方はとっとと読み飛ばして下さい 笑)。
私が推理小説に目覚めたのは小学校の高学年の頃、コナン・ドイルの「バスカビル家の犬」を読んだのがきっかけでした。ご存知シャーロック・ホームズが活躍する長編ですが、それからホームズ作品をいくつも読み、やがて江戸川乱歩先生の明智小五郎にたどり着きます。
やはり日本人ですから日本の作品が親しみやすかったのでしょう、ポプラ社から出版されていた少年探偵シリーズを読みあさるようになりました。
全46巻刊行されていた同シリーズを全て読んだわけではないですが、学校の図書館にもあったほどですから同世代の読書好きの男の子なら大抵一度は目を通したのではないでしょうか。
第1巻のタイトルはおなじみの「怪人二十面相」で、他にも「宇宙怪人」「透明怪人」「サーカスの怪人」「魔人ゴング」「灰色の巨人」「青銅の魔人」「塔上の奇術師」「鉄人Q」「電人M」etc(私もよく覚えてるな 笑)…内容は子供向けの冒険活劇で、毎回宇宙人やら透明人間やら魔人、怪人らが出没して怪事件を引き起こし、少年探偵団が立ち向かうと言う勧善懲悪の世界が描かれ、明智小五郎は少年探偵団の後見人的な立場で登場します。
少年探偵団は敵をあと一歩のところまで追い詰めますが最後に明智が出て来て美味しい所を持っていき(笑)、明智によって宇宙人やら魔人・怪人の正体が暴かれると実は二十面相だったと言うのが定番でした。
しかし少年探偵団vs二十面相の戦いは27巻で終了、28巻以降は突如がらっと内容が変わり、何故か少年探偵団も二十面相も姿を消し、明智が猟奇的な殺人事件に挑むようになったので驚きました。
少年向け作品が尽きたので本来の大人向けの明智小五郎作品を収録し始めたから起こった現象でしたが、同じシリーズで前半と後半で何でこんなにも内容が違うのかと子供心に戸惑いましたよ。そもそも少年探偵団が出なくなったのに何故かタイトルは少年探偵シリーズのままとツッコミどころ満載(少年向けに書き改めた探偵小説と言う意味合いか?)、「蜘蛛男」「魔術師」「地獄の仮面(原題は吸血鬼)」「一寸法師」「地獄の道化師」…子供向けにリライトしているとは言え小学生にはかなり刺激的でしたが、生意気に私も次第にお子様ランチ的な世界に飽き足らなくなっていたので、こちらの方にどんどん傾倒していきました。
今もネットで当時の全46巻の表紙絵が見られるので懐かしみながらチェックしたら、1〜27話の前半(二十面相編)は半分ほどしか読んでいないのに、後半28〜46巻は完全制覇していました。
随分後に原作を読んで知ったのですが、本来は明智小五郎が登場しない作品までも無理矢理主役を明智に変更して収録しているものも多くあり(「三角館の恐怖」「緑衣の鬼」「恐怖の魔人王(原題は恐怖王)」「幽鬼の塔」etc)、この結果ますますシリーズ全体で明智のキャラの統一性の無さに拍車がかかっていたのです。
ポプラ社の少年探偵シリーズには未収録でしたが、明智小五郎の初登場は乱歩先生が1924年(大正13年)に発表した「D坂の殺人事件」と言う作品でした。
デビュー時の明智はタバコ屋の二階に間借りしているまだ二十代の若者で、服装には無頓着で木綿の着物によれよれの兵児帯(へこおび)と言う貧乏書生でした。
やせ型でいつもにこにこ笑顔を絶やさず興奮するともじゃもじゃの髪をかき回す癖があり、「顔つきから歩き方、声色までが講釈師の神田伯龍(5代目)にそっくり」、これは乱歩先生自身が5代目伯龍のファンで講釈をよく聴きに行っていた影響でしたが、明智小五郎のモデルになった講釈師の若い頃の写真があれば是非拝みたいものです。
お気づきの方も多いでしょうが、初期の明智小五郎は神田伯龍と言うより後の金田一耕助とそっくり、特に「興奮するともじゃもじゃ頭を引っ掻き回す癖」などは金田一の特徴としてあまりにも有名ですが、元祖は明智小五郎だったのです。
もっとも乱歩先生は明智を登場させるのは「D坂の殺人事件」一作だけにするつもりだったそうですが、すこぶる好評だった事から翌年発表の「心理試験」にも明智を起用、やがて明智は乱歩先生の代表的キャラクターとなっていきます。
但し金田一耕助がデビューから終始一貫変わらなかったのとは対照的に明智小五郎のキャラクターは時代とともに大きく変貌していきました。
着物の貧乏書生がいつしか洋装の紳士と変わり、1954年(昭和29年)発表の「化人幻戯」(けにんげんぎ)(ポプラ社少年探偵シリーズでは「白い羽根の謎」と改題)での明智は「既に50歳を超えているが実年齢よりずっと若く見える」と形容されていました。
翌年発表の「影男」を最後に明智は大人向け作品からは姿を消し、少年向け作品のみの登場となりますがどの時代の明智を支持するかは人それぞれ、世間的には少年向けの二十面相と戦う明智が最もポピュラーでしょうが、私はやはりアダルトな世界の明智が一番好きですね。
とにかくこの頃の私は明智小五郎に夢中で母親に「小五郎と改名したい。」と申し出て怒られました(笑)。
そう言えば昔、「クイズダービー」(懐かしいね)で問題として、ある交通違反の裁判で被告の名前が何と!明智小五郎だった事に裁判官が絶句したと言う実話が紹介されていました。明智小五郎がせこい犯罪するなっての(笑)名付け親(当然乱歩先生のファンだったのでしょう)も天国の乱歩先生も泣いてるぞ!
さて、金田一耕助同様、明智小五郎もテレビ、映画、舞台で多くの俳優さんが演じていますが、やはり有名なのは故・天知茂さんでしょう。
多感な中学〜高校生時代に「土曜ワイド劇場」で放送されていた通称「江戸川乱歩の美女シリーズ」(「氷柱の美女」「エマニエルの美女」「天国と地獄の美女」と言った具合に必ずタイトルに「美女」が付く)を好きで欠かさず観ていました。
でも私が最も好きな明智小五郎は、東京12チャンネル(現テレビ東京)で1970年(昭和45年)にオンエアされた「江戸川乱歩シリーズ 明智小五郎」と言う作品なのです。
私はまだ5歳なので当然本放送は観ていませんが、その6〜7年後ちょうど明智小五郎にハマりだした頃、タイミング良く毎日昼の時間に再放送が始まり夢中で観ていました。
主役の明智小五郎を演じたのは溝口舜亮(みぞぐちしゅんすけ)さんと言う俳優さんで、この作品のみ滝俊介と言う芸名で出演されていました(この芸名は江戸川乱歩夫人が命名して下さったそうです)。
派手なスーツがよく似合ってアクションシーンもこなす溝口(滝)さん演じる明智こそが、私の中のヒーローのイメージとどんぴしゃ、まさに理想の明智小五郎そのもので、一発でハートを射抜かれてしまったのです。
もっともこの作品の事を知っている人は残念ながら少ないようで、たまにこの手の話に詳しい人と巡り合って「江戸川乱歩シリーズ 明智小五郎って知ってる?」と質問しても10人中9人までが「天知茂でしょ?」と答えます(笑)。
小学校は丁度冬休みだったので昼の時間帯でも観る事が出来たのですが、ああ憎き義務教育、冬休みが終了、途中から観られなくなってしまいました(涙)。結局全26話中、まともに観られたのは半分以下だったと思います。
以来約40年、この間天地版の明智小五郎は何度となく再放送され、DVD&ブルーレイ化されるなどの好待遇ぶりですが、私が一番好きな「江戸川乱歩シリーズ 明智小五郎」は全く日の目を見ず幻の作品となりつつありました。
何とかもう一度、わが理想の明智小五郎の勇姿が見たい!長年その思いは募る一方でした。何でも2002年にスカパー!の東映チャンネルで一度だけオンエアされたようなのですが、その時は情報不足で見逃してしまったのです(涙)。
2008年頃、何故か突然、サントラ盤のBGM集のCDが発売され、番組のオープニング&エンディングテーマ曲を懐かしみながら聴いていましたが、本編が観られないのにBGMだけ聴いても余計欲求不満になりましたよ。
毎年自分の願い事や目標を手帳に書く事を習慣としている私ですが、この頃からずっと「江戸川乱歩シリーズ 明智小五郎 DVD化」と言う悲願を書き続けて来ました。
昨年(2014年)の1月、東映チャンネルが開局15周年記念と称して、いくつかのドラマの1話と最終回を集中放送し、遂に「明智小五郎」がオンエアされました!
2話だけとは言え実に約40年ぶりの再会、感動ものでしたがそうなると全話観たくなるのが人情と言うもの、何で1話と最終回しかやってくれないのかと東映チャンネルに全話放送嘆願のメールを送信すると、「貴重なご意見ありがとうございます。今後の番組編成の参考にさせて頂きます。」と型通りの返信がありました。
それからさらに一年以上が経過した今年の5月のある日、スカパー!の次月度のガイドブックをパラパラとめくっていた私は東映チャンネルの番組表を見て思わず目を疑いました。 待望の「明智小五郎」が、今度こそ全話オンエアされる事になっていたからです!
本当に夢ではないかと思わずほっぺたをつねりましたよ(笑)。
私のリクエストを忘れてくれなかった東映チャンネルさん、ありがと〜!!
6〜9月にかけて毎週2話ずつのオンエア(全26話)をじっくりと楽しみ、約40年の月日を経てようやく全話を完全制覇できたのです。
DVD化ではなかったものの、やはり夢は叶うもの(涙)…と書いてこの文章を感動的に締めくくるつもりでしたが、何と締切直前、ビッグニュースが舞い込んで来ました。
本当に来年2〜3月、「江戸川乱歩シリーズ 明智小五郎」のデジタルリマスター版DVD−BOXの発売が決定したのです!!
おいおい、どうせなら全話オンエア観る前に発売してよ!と思わず天を仰ぎましたが、画像も綺麗そうだやっぱり買っちゃうでしょうね(笑)。
本当に長年の夢が叶う事になりましたが、DVDを入手したらまた改めて取り上げて見たいと思います。毎度毎度読者の皆様をおきざりにしてすみません!
「ワッハッハッハ、わかるかねアケチくん。」(怪人二十面相のお馴染みの台詞より)
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