(前回からの続き)
さて、11月の第三週目の土曜日はこの月のハイライト、年に一度、金田一耕助生誕の地(横溝正史先生の疎開先)である岡山県倉敷市の真備町で行われる仮装イベント「1000人の金田一耕助」(FILE No.309,310,353 参照)に今年も行って来ました。
これで三年連続のエントリーですが、昨年のイベントのレポートの中で名作「獄門島」について触れたところ、読書好きのシーピー化成の脇本氏が続々と現在も入手可能な金田一耕助ものを買って読み始めたのです。
私のブログの影響力も大したものですが、キーワードとなる謎の言葉「きちがいじゃが仕方がない」がよほど琴線に触れたようで(笑)。
おかげで私も去年の末から今年の春にかけて、主要作品を全てお借りして読破する事が出来ました。
映画やドラマなど映像作品はちょいちょい見ていても原作は20年以上ぶりで(中には初めて読む作品もあり)色々と新しい発見がありましたよ。
3月に脇本氏が福岡に飛ばされ、あわわご栄転されたので身近に横溝作品について語れる人がいなくて淋しいなあ〜。
いつだったか知り合いの若い女性が不意に「金田一」と口にしたので「えっ、知ってるの?」と喜んだのも束の間、アニメの「金田一少年の事件簿」の事でした(苦笑)。
昨年のイベントに参加して反省点がいくつかあり、年の初めから早くも今年に向けての準備を始めました。
まず第一が衣装です。以前にも書いたようにこの衣装、インターネットで見つけたサイトで特注で作ったのですがその際に身体のサイズを少し大きめに申告してしまい、第一回目(2012年)の時から既にかなり余裕がありました。
私としては今後太ってしまった時の事を心配してそうしたのですが、ご存知の通り昨年夏過酷なダイエットを敢行、太るどころか10kg近くも減量した為、第二回目にはまるで子供が大人の服を着ているようなぶかぶか状態、まともに歩けたものじゃありませんでした。
そこでプロレス仲間の京都のヤマカンさんに船場にある仕立て直しをしてくれる良いお店を紹介してもらいました。身体の各部のサイズをきちんと測ってもらい待つ事一ヶ月程でお直し完成、流石プロ、試着してみたらぴったりフィットしました。
そしてもう一つが帽子です。昨年まで被っていた帽子も前述のサイトで衣装とセットで購入したものでしたが、個人的には今一つ不満でした。やはり金田一耕助と言うと所謂チューリップハットの印象があまりに強かったからです。
今年久々に読んだ原作では金田一が被っている帽子を「お釜帽」と表現していました。
お釜帽がどんな物なのか色々調べても今ひとつ判然としませんでしたが、ひょっとしたら昨年までの帽子がこれに近いものかもしれません。
チューリップハットのイメージを定着させたのは、76年から角川映画で金田一を演じて一大ブームを巻き起こした石坂浩二さんで、以後金田一を演じた俳優さんは殆どがこのスタイルを踏襲しています。
ただ、もっとも多くの作品で金田一を演じた古谷一行さんは最初の「横溝正史シリーズ」(77、78年)では意外に帽子を被っているシーンが少ないんですよね(80年代のシリーズではやはりチューリップハットを着用していましたが)。
…と言う事で今や金田一の代名詞となったチューリップハットを探し始めましたが、どうも良い物が見つかりません。別注製作可能というお店があったので、写真を添付して「こんな帽子を作れないか?」と問い合わせてみたら「写真の帽子は型から作るタイプのものなので対応出来ません。」との事、成程、一般的なチューリップハットって頭頂部を中心に布を張り合わせて作っているよな…帽子の製法にも色々あるんですね、一つ賢くなったぞ!
今度は型から帽子を作るお店を探したところ、当社の社員がネットで良いお店を見つけてくれました。しかも場所は私んちから徒歩圏内、まさに灯台下暗しです。
一日一件(一人)しか商談をしないという職人のおじさんがやっている、創業90年以上の歴史がある老舗の小さなお店で(http://boushiya.jp/)アポイントの上訪問した店内には初めて見る帽子の金型がずらっと並んでいました。
こだわって金型から製作するとなるとそれこそ数百万円の仕事となるそうですが、今やこの金型を専門で製作する職人も国内にはいないらしいです。
帽子屋の御主人と入念に打ち合わせを行い、まずは最適な生地を探して頂く事になりました。これだけでも二ヶ月ほどかかり生地が入荷したところで頭のサイズを採寸、仮装の本番では鬘を被るので当然その状態で測ってもらいました。
御主人の説明によれば散髪をしてからどれぐらい時間が経過したかによっても帽子のサイズは微妙に変化するそうです。
採寸が終わるといよいよ金型に熱を加え、生地で形を整えていくという工程ですが、何しろご主人一人で全てハンドメイドで行っているので順番待ち状態、完成は半年近くかかるとの事、どうせ本番は11月なので気長に待つ事にしました。
9月、前述の70年代に放送された古谷一行さんの「横溝正史シリーズ」で主題歌を歌っていた、茶木みやこさんのライブに行って来ました。
シリーズ一作目のエンディングテーマ「まぼろしの人」、二作目の「あざみの如く棘あれば」独特の鼻にかかったような歌い方が印象的でしたが(田井屋の田井社長も同じ事を言っていたなあ)、茶木さんは暫く音楽活動から遠ざかっていたものの21世紀になって活動を再開、この日の機会に恵まれたのです。
もっとも私の心配はライブで前記二曲を歌ってくれるのか?という事でした。
「まぼろしの人」の方は無事聴けましたが、残念ながら「あざみの…」の方はこの日は歌わずじまい、どちらかと言うと私はこちらの曲の方が気に入っているので残念でしたが、ま、次回のお楽しみとしましょう。
金田一特集本に茶木さんのインタビューが掲載されていて、毎年の仮装イベントとコラボして歌ってみたいとの事でしたので、いつか実現して欲しいものです。
そうこうしているうちに早くも11月に突入、ようやく帽子が完成したとの連絡があり、折角なので金田一の衣装を着て車に乗って(笑)お店に向かいました。
流石に完成品は実にしっかりした素晴らしいクオリティ、これなら映画やドラマの撮影にそのまま使えそうなレベルです。(もし金田一作品が新たに製作されるならお貸しします 笑) しかし帽子の裏に入れて頂いた金色の金田一耕助のネームの刺繍が、間違って金田一耕介になっている! この間違い、よく一般の方がやるんですよね〜。上田馬之助がよく馬之介と間違えられるのと同じです。
聞けば刺繍は外注との事、先方が金田一ファンならこんな失敗は無かったのでしょうが(苦笑)。お店のご主人もショックを受け盛んに悔しがっていました。猿も木から落ちる、名人にも失敗ありですが、イベントには間に合わないので終了後にゆっくり修繕してもらう事になりました。
11月22日、いよいよイベント当日、大きな荷物を抱えて岡山行きの新幹線に乗りました。帽子屋さんに行く時も金田一の衣装で車に乗った事だし、いっそこの日はその格好で新幹線に乗ってやろうかとも思っていたのですがやはり私にも羞恥心あり(笑)、土壇場で止めました。この日は三連休の初日で新幹線の自由席は通路まで一杯、止めて正解でしたよ。
例年通り広くて便利な岡山駅のトイレの個室で金田一に変身、今年も出迎えてくれたシーピー化成の野内さんと合流しました。
昼食の為に立ち寄ったうどん屋ではお店の人が声をかけてくれました。流石地元民、ちゃんとイベントの事をご存知なんですね。ヘンな人に間違えられず良かったです(笑)。
集合場所に着くと早くも大勢の人が集結していました。年々増えている参加者数今年は約100名、目標の1000人まであと900人です(笑)。
しかも毎回参加者のコスプレのレベルが上がっているようで、私も来年当たりは別キャラに挑戦してみようかな…。
毎年世話役を務めている筋金入りの金田一マニア、網本さんと川崎さんにご挨拶、完成したばかりの帽子を誉めて頂きました。
例年はもう肌寒いのですがこの日は最高気温20℃と11月の終わりとは思えぬ好天、日中は暑いぐらいで毎年羽織っていた黒いコートは出発前に急遽脱いで、野内さんに預かってもらいました。
今回も金田一ゆかりの地を回りながら計6〜7kmを約4時間かけて歩きましたが、今年は下駄履き特訓をあまりしていなかったせいか足が疲れました。
最終到着地である真備ふるさと歴史館では昨年までの紙芝居に代わり、今年は「獄門島」の犯行現場再現会が行われました。
ネタバレになりますが同作品では了然和尚が花子の死体を背に担ぎ、片手に提灯を持って 寺への石段を上っていくシーンがあり(この後有名な梅の木へ死体を逆さ吊りするシーンに繋がる)それが実際に可能かどうかを実験するのです。マニアの考える事は凄いですね(笑)。
私もチャレンジさせてもらいましたが花子の死体に見立てた人形は30kgもあり、これを背負って尚且つ片手には提灯を提げて石段を上るのはかなりの苦労でした。
結論、了然和尚は年齢の割に相当の怪力の持ち主とお見受けしました。これぞ「火事場の馬鹿力」というやつか?
夕方4時半に無事イベントは終了、用意されたテントで着替えを済ませ再び迎えに来てくれた野内さんに駅まで送って頂き、今年も無事金田一耕助生誕の地を後にしたのでした…。
翌朝、家で産経新聞を読んでいたら昨日の様子を伝える小さな記事を発見、しかも堂々と先頭を歩く私の姿が写っていて驚きました。例年のような地元版ならいざ知らずまさか全国版に載るとはねえ〜。おかげで包装タイムス以来の全国紙登場となりましたよ(笑)。
(イベントの模様はこちらをクリック)
それにしても毎年イベントに参加する度、猛烈に金田一作品を読みたい衝動に駆られます。
昔は横溝正史先生と江戸川乱歩先生の作品は随分持っていたのですが、ある時期哀れ古本屋行きに…ああ勿体無い、やはり何でも残しておくべきですね。
いちいち脇本氏に送ってもらうのもお互い手間だし、かと言って今から買い揃える気力もなし、もし次に買うとしたら電子書籍でしょうか。
既に横溝先生の代表作はかなり電子書籍化されていますがどうせなら全作品まるごとパックでもあれば大人買いしてしまうかもしれません。…でもやっぱり本は、紙のページをめくって読むのがいいので手元に置いておきたいなあ…って結局どっちなんだよ!
金田一作品は時代によって表紙カバーだけを変えて再販されているものが多数ありまして、例えば私が一番好きな作品「女王蜂」(角川文庫版)にしても、私が知っているだけでも四種類もの表紙が存在します。筋金入りのマニアともなるとそれらを全て揃えようとしますからね〜。
映画化された作品の一部にはスチール写真バージョンの表紙もあり、これらは映画の公開期間前後しか世に流通してないので入手は超困難、何ともマニア泣かせです。
真備ふるさと歴史館に多数展示されていましたが、貴重な初版本を欲しがるのもマニアの特徴ですね。
そう言えば先日ネットオークションをチェックしていたら横溝先生の全作品、完全ではないものの表紙違いも多数含めた計104冊が何と!80万円で出品されていました!
流石に私も表紙違いや初版を探す程の執着はありませんが、自分が持っていた時代の杉本一文画伯の描いたイラストが表紙のものを少しずつ揃えようと思い立ち、未読作品を優先的に古本屋に行った時やネットオークションで細々と買い集め始めました。 「女王蜂」を古本屋で150円で見つけた時は嬉しかったですが、私のライフワークとして死ぬまでに全作品を揃えたいと思います。私もライフワーク多いよなあ(笑)
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