FILE No. 892 「価格改定(7)」

「価格改定(7)」

いよいよ真夏、7月に突入、このブログを書いているのは5月の終わりですが、これがアップされる頃の我が業界は価格改定、即ち値上げ騒動で大変な事となっているでしょう。
ゴールデンウイーク真っ只中、世間が大忙しの4月30日に容器メーカーの最大手・エフピコが7月1日から15%以上の値上げをしれっと(笑)発表、連休が明けると同時に待っていましたとばかりに中央化学、シーピー化成、リスパック…と各社が相次いで値上げを表明しました。
その文書を読むと今回の値上げ要因は(1)電力料金の急騰(2)原油価格高騰や急激な円安によるナフサ、ベンゼン高騰による原料の値上がり(3)更には物流費や労務費のコスト増等が原因との事です。
以前、リスパックさんが原料メーカーは文書1枚で強引かつ一方的に値上げして来るとぼやいていましたが、せめてもの抵抗&嫌味なのか?エフピコ筆頭に各社どの文書も判で押したように「原料メーカーからのユーティリティコストの転嫁」と同じ言葉が使われているのには笑えました(笑)。
大体ユーティリティコストって何だよ? ユーティリティとは公用、有用、有益、役に立つもの、公共事業体を意味する英語で、ユーティリティコストとは電気、水道、ガスなどエネルギーコストの総称だそうです。
因みに「ウルトラマン80」に登場するUGMはユーティリティ・ガバメント・メンバーズの略称です(笑)。

ここ数年何度も繰り返される我が業界の値上げですが、私が初めて経験したのはリスパック入社2年目、1990年の事でした。
イラク(当時の大統領はフセイン)による隣国クエートへの軍事侵攻に端を発し、翌91年にアメリカを中心とした多国籍軍との間でいわゆる「湾岸戦争」が勃発、この中東事情の悪化により90年の夏頃から原油価格が跳ね上がりプラスチック製品が軒並み値上げとなりました。
営業マンの立場からすればお得意先の担当とは良好な人間関係を保ちたいのが人情、ましてやこの時期は各メーカーとも需要増に生産が追いつかず大欠品でご迷惑をおかけしていたので、そこに値上げの話は火に油を注ぐようなものでした。
まだ駆け出し営業の私はこれから自分が担当している代理店の問屋さん1社ずつに嫌な顔をされるのかと思うと憂鬱な気分でしたが、直属の上司だった城戸課長からは「田宮君、心配するな。力のある問屋さんほどむしろ値上げを喜んでくれるから。」と言われ目から鱗が落ちました。
その理由は、これまで価格競争により低いマージンでやらざるを得なかった商売が、メーカーの値上げを大義名分に価格修正ができ利益の改善に繋がるからです。
そう言われても正直その時はピンと来ませんでしたが、後に自分が問屋の立場となり本当にその通りだと実感しました。「変化の時こそビジネスチャンス」、昔から私が値上げ大歓迎の賛成派なのは長い付き合いの方はご存知でしょう。だから値上げを嫌がる同業がいたら信じられません(笑)。
城戸課長の言葉に半信半疑で各代理店さんに値上げをお願いに回ると流石に歓迎とまでは言いませんが各社共前向きに捉えてくれ、ユーザーに対して上手く価格転嫁する為の後方支援を求められました。
1社だけ値上げに露骨に嫌な顔をした社長がいたので城戸課長の受け売りで、「価格修正のチャンスなので問屋さんは値上げを歓迎していますよ。」と言うと「うちはできねえんだよ!」と怒られましたが(苦笑)。
問屋さんがユーザーに値上げに行くのに何度も同行しましたが、今思えば新人に毛の生えた程度の私が行っても殆ど戦力にならなかったと思います(汗)。それでも腐っても(笑)大メーカーの営業の威光は大きい?割合すんなりと値上げ商談がまとまるのを目の当たりにしたものです。
ただ、当時私がフォローしていた中で最大のユーザーだった雪〇食品だけは苦戦しました。埼玉県の春日部(太田裕美さんの地元!)にあった同社の関東工場は欠品やクレーム処理で何度も足を運んだ辛い青春の思い出の地ですが(苦笑)、問屋さんと共に出向いて10%強の値上げ交渉に臨んだところ、先方からは「5%までは認める。」との回答がありました。
こちらも会社への報告義務があるので「なんで5%?」とその根拠を尋ねると、先方窓口の資材課長から以下のような説明がありました。
「現在、おたくだけでなくあらゆる仕入れ先、メーカーから平均12%の値上げの要請が来ている。我々の分析でこの内訳は原油及び原料価格の高騰によるものが6%、残りの6%は物流費や副資材などの間接経費(いわゆるユーティリティコスト!)によるものと考えている。このうち前者の6%分に関しては現在の中東情勢を考えればやむなしだが、後者の6%に関しては安易に価格転嫁せず、社内合理化などの企業努力で吸収して欲しい。」34年も前の話なのによく覚えているのは、先方の分析がかなり正確だなと内心驚いたからですが、「それなら5%でなくせめて6%は上げさせてくださいよ。」とつっこみたいところ、ようは1%はまけてくれと言う事です(笑)。今思えば多少便乗値上げ分が乗っている事も見抜かれていたのかもしれません(笑)。
会社に帰って営業日報に先方から言われた事を書いて提出したら、城戸課長がそれをそのまま本社のエライさんにファックスしていました。当時はまだパソコンでなく手書き、私の汚い字の乱筆乱文がダイレクトに上層部に行ったのには穴があったら入りたい心境でしたが(汗)それまでそんな事が一度も無かったので驚きましたよ。
結局、雪〇食品の値上げは5%で決着しましたが、その雪〇も今はもうこの世に存在しないのですからつくづく栄枯盛衰を実感します…。
メーカーの中には今も昔も一方的かつ強引に値上げを強行して来る先もあります(敢えて何処とは言わない 笑)が、当時、城戸課長は「我々はあくまで話し合いによって解決する。」と口にしており、その姿勢は私が問屋業に転じてからも継承しているつもりです。一方で「この業界ごね得だな。」と思ったのも事実ですが(笑)。

タミヤに入社してからも何度となく厳しい値上げ騒動をかいくぐって来ました…。

(次回へ続く)