FILE No. 893 「価格改定(8)」

「価格改定(8)」

(前回からの続き)

タミヤに入社して31年、その間に何度となく値上げ騒動を経験して来ました。20年ぐらい前までは我が業界も採算度外視のシェア争いが横行、こんなのどう考えても製造元は大赤字だろうと思われる、いわゆる「陥没価格」が相当あり、50~70%アップ等と言う凄まじい値上げもありましたよ(笑)。
こういう場合大抵揉めそうですが、お得意先がいかに自分たちがこれまで安い買い物をしていたのか自覚してくださっていれば、渋々ながら理解してくださいます(苦笑)。近年は随分まともな業界になって?そんな極端な話は殆ど聞かなくなり、ほっとするような淋しいような不思議な気分です(苦笑)。

さて、今年の値上げも5月の連休明けから各社の滅多に来ない?上司が値上げ文書を持参しお約束の「状況説明」(笑)、恐らくこの後新しい価格表が出て来るのでしょうが(だからこれを書いているのは5月の終わり!)このブログの更新時にはそれを受けた我々問屋が値上げ交渉に走り回っている事でしょう。
実は5月15日に、目前に迫った値上げ戦争に備え、まさにベストタイミングで開催されたセミナーに参加して来ました。その名もズバリ、「値上げセミナー」!主に製造業向けのものでしたが「相手が納得する!値上げ交渉の進め方」(笑)、どんなにうまく取り繕っても相手が納得するって事は無いだろうとは思いましたが(苦笑)、内容はなかなか面白かったです。

著者 ‏ : ‎ 北島大輔 出版社 ‏ : ‎ あさ出版
「値上げセミナー」講師の著書  

セミナー冒頭で主に中小企業を対象としたアンケート結果(帝国データバンク社の調査)が紹介され、コスト上昇分の価格転嫁率がわずか40・6%と聞いて驚きました。因みに仮の話、材料費が20%、社員の賃上げ分の経費が5%上がった場合、会社は売価を10%上げる必要があるそうです。勿論あくまでそれは売り上げ数量が減らない前提の話、世の中そう机上論通りに行かないのが常なので、何処も数量減を恐れて慎重になりコストアップ分を吸収してしまう事が価格転嫁率の低さに繋がっているのです。
うちの場合、少なくとも仕入れが上がった分に関しては100%価格転嫁していますよ。元々少ないマージンでやっているのに値上がり分を被っていたらこちらが持ちません。だから100%転嫁しているはず?と信じていたのですが…。我が業界は二年前にも1回目が10%、2回目が15%と大きな値上げが年に二回もありました。
つまり合わせて25%、そして今回の値上げが15%ですから、額面通りなら合計で3年前と比較して40%ものアップとなるのです。しかし当社の売り上げはそこまで上がっていないぞ!?
お~い、どうなってんだ(苦笑)!? 
いつも社員に口を酸っぱくして言っている事ですが、本来我々の値上げはメーカーからの仕入れ値のアップ分だけでは駄目なのです。人件費、物流費などあらゆる経費が上昇している昨今、それらを価格転嫁しない事には繰り返すように会社が持ちません。君たちの給料は何処から出ているのか、常に忘れないでくれ(苦笑)!
もう一つ、セミナーで聞いた中で印象に残った話、「今年は値上げだ!と全得意先に対して一律で同じ対応はNG、必ず失敗を招く。シェア減に繋がり表面的に値上げが成功したように見えてもかえって業績が悪化する。」
これを聞いて思い出したのがまだ私が社長になる前、部長だった時代ですからもう26年も前の話でした。
やはり業界で10%の値上げがあり、私は当時の部下たちに「それぞれ自分の担当先を一律10%値上げしなさい。」と指示しました。
そうしたらある営業が、売り上げは少額ですが元々粗利率が40~50%もあったお得意先まで値上げし、案の定相見積もりをとられシェアを失いました(苦笑)。
呆れて叱責すると「だって全得意先10%値上げしろと言いましたやん。」そりゃあ言ったけど…元から儲かり過ぎている先をわざわざ値上げして藪突いて蛇出してどうすんだ!?頼む、もう少し脳みそを使ってくれ(今こんな事言うとパワハラ認定!)。はい、私の指示の仕方が間違っていました(笑)!
値上げの時期なら「しっかり値上げをしろ!」と方針を打ち出すのはやはりトップの仕事です。それを受けてお得意先別、商品別、時期など個別に対策を考え実行するのが担当役員やリーダーの役割、どうか26年前の私の二の舞にならないでください(苦笑)。
30年以上やっていてつくづく思うのは、失敗するのは結局、普段から訪問していない(人間関係が出来ていない)、情報提供が出来ていない(価格以外のメリットを感じて貰えていない)場合が殆どです。我々の取扱品の大半が付加価値が低く他社より優位性のあるものでは無い為、やはり営業力、ひいては人間力が問われます。
リスパック時代に飲みに行った席で先輩に上手な値上げ交渉の仕方を聞いたら、「おたくさんも女房、子供さんがいて奥さんがいたらわかりまっしゃろ?値上げしないと会社が潰れてわしら路頭に迷うんですわ。」と泣きつき作戦を伝授されましたが、芸が下手な人間なので、流石にこれは試しませんでした(爆笑)。

私は「三方良し」の精神こそ正しい商売の在り方だと思っています。利益が無いとやっていけないのは何処も同じ、メーカー、問屋、何処かが無理をして泣く商売は決して長続きしません。こう書くと「値上げされるユーザーさんは泣く事になり、三方良しになっていないじゃないか?」とツッコミが入りそうですが、我々の取扱い品の主力であるトレイ、容器類は購入頂いた小売店、食品加工メーカーさんにとってはあくまで中身の食品と同じく「仕入れ原価」です。
コストアップとなる事は心苦しいのですが、食品価格も軒並み高騰している昨今、メーカーも我々問屋も安定供給を心がけますので、是非とも適正売価による適正利益を実現して頂きたいですし、それこそが真の「三方良し」と考えています。
仕入れ先ともお得意先とも話し合いによる解決を目指し、この難局を乗り切る所存です。

非常に固い話が続いたので来週こそはリラックスネタで(笑)。