FILE No. 803 「正義は勝つ(6)」

「正義は勝つ(6)」

(前回からの続き)

かつてお金を踏み倒した相手が自滅した事例をいくつかご紹介しましたが、似たような話は他にも沢山ありました。
やはり別注品在庫で泣き寝入りさせられた衣料品チェーン店はその後別の企業に吸収合併され今は会社自体が存在しませんし、同じく理不尽な理由で切られたベビー用品、ドラッグ、スーパーのチェーン店もその後それぞれヨーカドー、イオン、イズミヤの系列となりオーナー一族が一掃されました。
あまりにこんな事が続くので、ある日訪ねて来た某メーカーの営業担当が私に「あの~、前から不思議に思っていたんですが、タミヤさんに酷い事をした会社はなんで次々と不幸になるんですか?」と質問してきました。
「うん、それは私が夜な夜な呪いの藁人形に五寸釘を打っているからだよ。」と返して二人で大爆笑したものでしたが(笑)、冗談はともかく同業の社長と話をしていて「不思議と取業者にきついユーザーほど潰れるよな」と言われた事があり、大なり小なり皆、似たような経験をしているんだなと感じたものです。
結局は会社なんて取引先の協力が無いと成り立たないもの、これは決して業者と馴れ合うと言う意味ではなく、ビジネスですからシビアにやるのは当然としても必要以上に虐めたり買い叩くのはNGです。相手だって適正利益が無いとやっていけないのですから何かで買い叩かれたら(そもそもこの表現自体が信じられない)必ず目に見えない所で損を取り戻しています。我々の業界でユーザー倒産情報が流れると「えっ、あれだけ安く買っていると評判の先がなんで!?」と驚く事が多いのですが、優良な業者が敬遠するようになると次第に有益な情報も入って来なくなり、結局は高い買い物をする羽目になるのでしょう。
ましてや我々のような問屋業は、仕入先であるメーカーさんに対し「買ってあげている」客の立場であっても、それは同時に「売って頂いている」事を忘れてはいけません。
因みにうちの会長の口癖は「メーカーさんは絶対に値切るな!まけてもらえ!」でした(爆笑)。

弊社にとって最大の仕入れ先は、昔も今もトレイ・容器メーカーの最大手であるF社です。
問屋の立場としては特定メーカーに肩入れせず、あくまで顧客の要望に応え品揃えするのが使命ですが、業界シェアではF社がダントツにつき当然問屋の取扱高も大きくなります。
F社は主力問屋の代理店会を結成し、弊社も役員の末席を務めていましたが、以前書いたようにF社自身がユーザーとの直販体制を整えてからは問屋との関係も微妙になって来ました。我々にすれば言わば競合(それもメーカー系列の巨大問屋)が増えたようなもので、実際これも冒頭に書いたように弊社の売り上げ第2位の回転寿司屋を奪われました(後に倒産し結果オーライでしたが)。
余談ですがこの回転寿司屋を奪取された直後に代理店会の役員改選があり、よりによって“被害者”であるうちが副会長に推薦されました。会長の代理で出席していた当時社長のYが二つ返事で引き受けて会長が激怒、白紙撤回となりましたが、問屋としてのプライドが全く無い人が社長を務めていたと言う、笑うに笑えないエピソードでした(苦笑)。

代理店会の副会長に推したり、直販開始前は自分たちで開拓したユーザーを優先的に紹介してくれたぐらいですから、当時のF社は弊社を大阪地区での取り組み先と見ていたようで、私が社長になってからも色々とアプローチして来ました。
ある日、同社の役員がやって来て弊社のご近所、東大阪にある包材の小売りのお店の営業権を買わないか?と持ちかけて来ました。このお店は同社の別会社の運営で、私自身は包材小売店の経営にさほど関心は無かったものの、当時はいわゆる“団塊の世代”の前後、まもなく定年を迎える社員も何人かいたので、そういった方々の再雇用先として使えるかも?と前向きに検討する事にしました。
先方から入手した決算書や直近の試算表を専門家に精査してもらったところ、買い値としては1000万円が妥当と言われました。年間の最終利益が200万円程のお店だったので順当に行けば5年で元手が回収出来る計算でしたが、メール(だったかFAXだったかは失念)で届いたF社からの提示額は5千万円でした。
随分足元を見られたものですが、すぐメールで「1000万円なら買わせて頂きます。」と返信したところ反応は無く、暫くして先方に会うと「あの話は白紙」とえらくご立腹でした。挙句に「メールで返事をよこすとは失礼だ、驚いた。」と言われてこちらが唖然としたものでしたが、社員にその話をすると「あくまで自分たちの方が偉いという発想ですね」と呆れていました。
これはあくまで推測ですが、恐らく役員会などで「あのお店はタミヤが5000万円で買ってくれる事になっています。」と先走って報告していたので赤っ恥をかかされた気分だったのでしょう。どちらにせよ八つ当たりもいいところ・・・こちらもそれなりに修羅場をくぐって来ていますので1000万円の価値しかないものに5000万円を払う程、世間知らずではありません(笑)。

また、社長になって実務全体を見渡すようになり、看過出来ない問題に何度か直面しました。
具体的に言うと弊社がF社の商品を販売しているお得意先に対し、同業他社から同じF社商品の安い価格提示があったのです。それも時には代理店会のメンバーですらない(こう言っては失礼ですが)弊社よりはるかに規模の小さな問屋から安値が出て来るのですからたまったものではありません。こちらの信用問題に関わるし、実際それが原因で商売を失った事もありました。当然F社にクレームを入れますが、「うちはユーザー・チョイスですから」、ある時など「取られる方が悪い」と開き直られ、正直誠意のある回答を貰った試しがありませんでした。
常日頃から「我々が一蓮托生で取り組むのは代理店会のメンバーのみ」と公言しているのにこれでは真逆です。次第に不信感が募っていき、入っていてもメリットが無いので退会を真剣に考えるようになりました・・・。

(次回へ続く)