FILE No. 805 「正義は勝つ(8)」

「正義は勝つ(8)」

(前回からの続き)

2006年、当時の最大の取引先であるスーパーがF社と直接取り引きをする事となり、会社は存続の危機に見舞われました。
取引停止日までに消化しきれない在庫について先方のT専務は「F社と話し合ってくれ。」との事だったので、当時の仕入部長が窓口となってF社と交渉しました。
在庫を抱えている弱みで、理不尽かつ筋の通らない事をした相手に平身低頭しなければならない嫌な役目を押し付けてしまいましたが、案の定来社したF社の担当とその上席はふんぞり返るようにして「今回の事はうちは悪くない、ユーザー・チョイスだ。」の一点張り、彼らが帰った後「刺し違えてやりたいと思った」と顔を真っ赤にして怒っていたもので、気持ちは私も同じでした。そんな調子ですから交渉も不調、それでも多少は引き取ってもらったものの大半の在庫を廃棄する事となりました。常務が、最大の仕入先との関係がこれ以上こじれるのはまずいと「私も一緒に行きますから先方の役員に会いに行きましょう」と進言して来ました(恐らく会長の入れ知恵でしょうが)。別に今更話す事もないし個人的には顔も見たくなかったものの、常務の顔を立てて一緒に出かける事にしましたが、どんな話だったか殆ど記憶にありません。もっぱら常務が喋り私は必要最低限しか口を利かなかった事と先方が相変わらずふんぞり返っていたのだけをかすかに覚えています。
社内でも動揺が広がっており、後で「社長がF社に謝りに行った。」と言う噂が流れたと耳にしましたが、こちらが被害者なのになんでやねん(苦笑)!と笑いそうになりました。
ここでまたシーピー化成の上野専務の登場ですが、会長と飲みに行った時、自分の事のように悔しがってぽろっと涙を流されたそうで、会長が「こっちが泣かにゃいかんのに」と驚いていました(笑)。

2006年度は会社始まって以来最大の赤字決算となりましたが、社員が一丸となって頑張ってくれたおかげで、ほぼ一年がかりでようやく赤字を脱出、2007年からは上昇気流に乗り5期連続で売り上げ予算を達成、2010年度は実質的に過去最高益を計上し奇跡とも言えるV字回復を果たす事が出来ました。
かつての最大の得意先の情報も取り引き終了後は殆ど入って来なくなりましたが、その後、全く新しい会社を設立してそちらに事業を継承し旧会社を清算、さらに新会社移行後何があったか知りませんが、うちを切ったT専務が失脚し降格処分になったと聞きました。これに不満を持ったT氏は退社し別のスーパーに移りましたが、よりによってそれが弊社の大のお得意先、二度と会う事は無いだろうと思っていたのに、思わぬ形で6年ぶりの再会が実現しました。
昔よりは幾分マイルドになっていて「あの時はすまなかったな、俺も仕事としてやったんや。」「おたくの会長にも宜しくな。」と言われました(苦笑)。

弊社から商売を奪ったF社でしたがやはりメーカー営業の限界を露呈、ユーザーの現場が不満を感じていると言う話が伝わって来ました。F社の営業は当然ながら自社の商品しか紹介しないので、食品容器のように市場性と変化が激しい商品においては価格を含めどうしても硬直化する事は容易に想像出来た事で、だからこそ我々問屋の存在意義があるのです。 案の定その後、我々の同業で最大手、東証一部上場で全国展開しているK社に全て切り替わりましたが、メーカー直販から再び問屋取り引きに戻った事はめでたいと思ったものの、なんでうちではなくてK社なんだ?「うちの営業は何やってんだ!」と、この時ばかりは現場を叱責しました(苦笑)。それから弊社も地道にワークをしていたら、新しく代わったK社もこれまた現場から不評との事、こう言っては失礼ですが私の経験からも、どうも上場企業と言うのは大なり小なり「売ってやっている」的な商売をするものなのでしょう(笑)。
そして今年の5月、弊社の営業努力が功を奏し、とうとうK社からの全面切り替えが実現しました。実に16年ぶりの完全復活、私も感無量でその日の夜は一人で祝杯をあげました(涙)。
先方がK社との取引きで不満を感じていたのが、自社倉庫に元々ある商品しか持って来ず(出先営業所につき倉庫スペースに余裕が無く在庫を増やしたくなかったのでしょう)、先方が望むF社の商品を全く紹介・案内してくれないと言う事は前々から聞いていました。お客様の負の解消こそ我々の使命、そこで切り替えに当たってはF社に全面協力して頂きました。まさしく昨日の敵は今日の友?これまでの経緯からすれば何とも皮肉ですが、まあお互いビジネスですから(笑)。
余談ですが弊社への移行が決まった後、K社から「残った在庫を引き取って欲しい。」との相談がありました。本来うちに引き取り義務は無いものの、知らない仲ではないしそこは同業のよしみ、私はメーカーに返品可能な物や既に使用実績の無い物を除外して、極力全て買い取るように指示しました。うちが16年前に、さらに遡れば前社長が独立した時にやられたのと同じ事をしたくなかったからで、これが私なりの筋道です。

崖っぷち状態から始まった私の社長業、22年間を振り返れば本当に苦難の歴史でした。
ただ、その時は辛く苦しい思いをしても、結果としてその殆どが災い転じて福となすとなったのは、やはり正しい道を突き進むと言う信念を忘れなかったからと自負しています。
途中筆が滑り?当該関係者の中にはご気分を害された方もいらっしゃるかもしれませんが、800回記念のご祝儀と言う事でお許しください(笑)。

どんな素晴らしい理念も正しい手法で実現しなくてはやがては腐敗を招くもの、弊社はこれからも常に世の正道を歩む企業であり続けます。