FILE No. 924 「江戸川乱歩シリーズ明智小五郎」

「江戸川乱歩シリーズ明智小五郎」

君は知っているか!?「江戸川乱歩シリーズ明智小五郎」

本日はバレンタインデー、それには全く似つかわしくないおどろおどろしいテーマでお届け致します(笑)。昨年末までBSで80年代に大好きだった、天地茂さんが明智小五郎を演じた通称「江戸川乱歩の美女シリーズ」の再放送をやっており、懐かしく観ていました。しかしそんなメジャー作品では私らしくないのでもっとマイナーな明智小五郎、東京12チャンネルが1970年(昭和45年)に制作した「江戸川乱歩シリーズ明智小五郎」をご紹介しましょう。もっとも流石の私もリアルタイム時は幼過ぎて、初めて観たのは76~77年頃の再放送でした。ちょうどこの頃は推理小説を読み始めた時期、シャーロック・ホームズを入り口に日本を代表する名探偵、明智小五郎や金田一耕助にはまっていましたが、そんな時にまさにベストタイミング、Uチャンネルのサンテレビで毎日お昼の1時から再放送が始まり、ちょうど学校が冬休みだったおかげで夢中になって観ていました。

同作品で明智小五郎を演じたのは溝口俊亮(みぞぐちしゅんすけ)さん、因みにこの時だけは江戸川乱歩夫人が命名した滝裕介名義での出演でしたが、紛らわしいので以下溝口で統一させて頂きます。冒頭の天地茂さんを代表格に、過去から現在に至るまで明智小五郎を演じた俳優さんはそれこそ数十人に上りますが、私の中ではこの溝口さんこそがベストなのです。この事は10年前にも駄文を書いていますので併せてお読みください。
(File No.448「わが理想の明智小五郎」参照)

溝口俊亮さんこそ我が理想の明智小五郎!(この作品のみ滝裕介)

何しろこの頃はウルトラマンや仮面ライダーの如く、明智小五郎を正義のヒーローとして見ていましたのでダンディで格好良く、悪人相手にアクションシーンもこなす溝口さんの明智に一発でハートを撃ち抜かれました。
しかしそのうち新学期が始まってしまいビデオもまだ普及していない時代ゆえ、あんなに楽しみだったドラマが観られなくなってしまいました(涙)。毎日新聞のテレビ欄のサブタイトルだけ見ては(今日はどんな話なんだろう?観てえなあ。)と歯軋りしていましたが、暫く経ったある日、何かの行事だったのか、あるいは土曜日だったのか?記憶は定かでないもののとにかく学校が半ドンの日があり、久しぶりに観る事が出来ました。
思わずその日はカセットテープに「録音」、その後も繰り返し音声を聴きましたが、その回こそがシリーズ中(全26話)屈指の異色作、怪作と伝説化している?第25話「白昼夢 殺人金魚」でした。
その後、40年近い歳月を経てDVD化やスカパー!でのオンエアが実現、未見のエピソードを含めた全話、特に思い出深い「殺人金魚」の回を視聴出来た時の感動は忘れられません(涙)。
以下、私が絶対お薦めの「殺人金魚この回のストーリーを要約してお伝えします。

☆☆☆☆☆☆☆

話は雑誌に掲載された明智小五郎の手記から始まる。子供時代、縁日で金魚を手に入れた小五郎少年だったが父親にそんなものを飼っておく場所はないと叱られ金魚を水洗トイレに流されてしまう。何とか金魚を釣りあげようと大真面目にトイレに釣り糸を垂らす小五郎少年、「その時の私には便器の底に澄み切った青い湖があるような気がしたのだ。しかし、この小さな事件が私に現在の職業を選ばせたと言っても過言ではない。私の父は平凡でお人好しな人間だったが、そんな父の中にさえ残虐な本能が潜んでいる事を知った驚きこそが私を犯罪心理学に結び付けた動機であった。現在私は職業柄、凶悪な事件に立ち会う機会が多い。そうした時に何故か私の脳裏を過るのはあの一匹の金魚の姿なのだ…。」 

シリーズ中最高傑作?第25話「白昼夢 殺人金魚」

この記事を読んだ殺人鬼・早乙女(演・斎藤晴彦)から明智に電話が入る。
早乙女は「金魚鉢と言うガラスの監獄で暮らすより汚い下水でくたばる方が金魚は幸せなのだ。」と明智を挑発、これから無差別殺人を行うと予告して電話を切った。
先ず早乙女は偽の郵便ポストに潜み、手紙を出しに来た人をポストの中からライフル銃で射殺、ポストがあった場所には一匹の金魚の死骸が残されており、明智はこれを自分への挑戦状と解釈した。
早乙女は占い師に扮し相談に来た客を標的にした。甘い物が大好物だが糖尿病で食べられないサラリーマンを拉致監禁、キャンデーなど甘いものしか無い部屋に閉じ込め殺害、キャンデーだらけの棺桶に死体を入れて家族の元に届けた。また、公団住宅の抽選にもう30回も落選している家族が相談に来ると、団地の貯水槽に毒を混入し8500人(!!)を大量虐殺、前述の家族が「僕たちの新しい家だ!」と入居を喜ぶ横で団地から続々と棺桶が運び出されるシュールな光景が展開する。また、人気女性モデルのストーカー男が彼女の結婚報道に絶望して占いにやって来ると男の命と引き換えにモデルへの復讐を約束、披露宴で新郎新婦がウエディングケーキに入刀するとケーキの中からストーカー男の生首が現れた。
明智はようやく早乙女の居場所を発見、地下の下水道での乱闘となる。その時、突如水中から巨大な金魚が現れ、早乙女を飲み込んだ!明智は呆気にとられ「化け物みたいにでかい金魚だったな。」と呟く…。

☆☆☆☆☆☆☆

現実か白昼夢か!?巨大な金魚が出現し殺人鬼を飲み込むとんでもないオチ

当時、この回を観たクラスメイトが「あの巨大な金魚は明智の目にそう見えたって事やろ?」と感想を語っていましたが、どう解釈するかは観た人の自由です。
因みに原作の「白昼夢」は僅か数ページ程の短編、後年読んで、なんでこれが1時間ドラマになるんだ!?と絶句しました。原作には金魚も明智小五郎も出て来ない、ようはテレビはほぼオリジナルストーリーなのですが、原作とドラマではある一点だけ共通点があり、是非両方をご覧頂きたく思います。この回は極端な例ですが、他の回も原作とはかなり乖離しているエピソードが多く、その意味でこのドラマは原作の乱歩&明智作品に思い入れの強い方にはあまりお薦めではないかもしれません。かくいう私も原作には人一倍思い入れが強いのですが、何度も言うように映像の明智としてはベストなのです。

尚、明智小五郎を演じた溝口俊亮さんはもっぱら悪役がお得意で、「Gメン75」第33話「1月3日関屋警部補殉職」(76年1月3日放送)の回が有名です(明智小五郎の6年後)。溝口さん演じる凶悪犯が自分を警察に密告して逮捕させたかつての女に復讐する為に脱獄、次々と殺人を繰り返し最後はタイトル通り、原田大二郎演じる関屋警部補と銃で相撃ちになるのですが、リアルタイムで観ていて本当に怖かったです!そしてこの犯人役が溝口さんだったのを知ったのは相当大人になってからでした。
私が観た「明智」は再放送なので「Gメン」の約1~2年後でしたが、トラウマになるほど怖かった殺人犯と憧れの明智小五郎が同一人物と知った時の衝撃(苦笑)、溝口さんの名優ぶりに脱帽したものでした。

今回もマニアックすぎる話題ですみません(笑)、来週は2月21日更新予定、と言う事は久々にあのお方の話題です…。

【 写真出典 】
「江戸川乱歩シリーズ明智小五郎」DVDボックス(ベストフィールド)解説書より(ベストフィールド許諾済み)
作品情報:「江戸川乱歩シリーズ明智小五郎」 制作:東映 東京12チャンネル