FILE No. 927 「闘魂猪木塾(3)」

「闘魂猪木塾(3)」
(前回からの続き)
「闘魂猪木塾」の初日、猪木塾長との夢のようなランチタイムの後、我々はロス市内にある三大格闘技道場、ホリオン&ホイス派のグレイシー・アカデミー、ビバリーヒルズ柔術クラブ、そしてヒクソン派グレイシー道場を訪ねました。
ホリオン&ホイス派ではエリオ・グレイシー、ホリオン・グレイシー、ホイス・グレイシーが勢揃いでしたが、誰かが力道山VS木村政彦について質問するとお爺ちゃんのエリオが「あの試合は八〇長だったと聞いています。」と答え皆が内心ドン引きしていました(苦笑)。
ビバリーヒルズ柔術クラブではパンクラスの常連だったバス・ルッテン、この二ヵ月前にPRIDE・3で桜庭和志と戦ったばかりのカーロス・ニュートンがいました。
そして、やはり一番印象に残っているのが“400戦無敗”ヒクソン・グレイシーに会えた事でした。何しろこの頃のヒクソンは前年10月にPRIDE・1の東京ドームで高田延彦を秒殺、総合格闘技の頂点と言われ絶頂期でしたからね。
もう28年も前になりますが、あの高田VSヒクソンの衝撃は忘れられません。
PPVの生中継を観ていたのですが、総合ルールとは言え“最強”と言われた高田がまさに赤子の手をひねるように呆気なくやられてしまい茫然、すぐにファン仲間に電話したのを覚えています。“プロレス最強神話崩壊” “プロレスが負けた日”…マスコミが派手に書きたてましたが、私のように「プロレスこそ最強の格闘技」と洗脳されてきた?猪木チルドレンには未だにトラウマですよ(苦笑)。
世界最強の男が待ち構える道場に到着しましたが、アポイントの時間には少し早く皆で入口の近くで待っていました。ふと見ると近くの路上に停まっている車の運転席でホットドッグをほおばっている男が目に入りました。(ヤベエ、危なそうな奴がいる)となるべく目を合わせないようにしていましたが、よく見るとそれがヒクソンその人でした(笑)。
写真を見て頂ければわかるように身体は特別大きいわけではないですが、全身から立ち込める独特のオーラ、高田が“蛇に睨まれた蛙”状態だったのも無理ないと感じました。
この時既に10月の高田との再戦が発表されていましたが、実はこの時高田もロスに来ており、つい先程我々が訪れたビバリーヒルズ柔術クラブで特訓をしていました。
しかも雑誌の企画で猪木さんとの対談が、まさにこの日この時間に行われていたのです。
帰国後にその対談記事を拝読しましたが、猪木さんの口から「今日も日本から猪木塾のツアーで参加者が40人来て、今握手会やって来たとこなんだけど…」の一節があり感激したものです。
因みにツアー中に猪木さんに高田VSヒクソンの結果予想をお聞きすると「ヒクソンの勝ち」(笑)、確かに当たりましたが高田さんの立場が(苦笑)…。
翌日はロスから約2時間のバス移動で自然溢れるビッグ・ベア・レイク(湖)へ…ここではフィールドアスレチック、夜はバーベキュー、陽が落ちてからはキャンプファイヤー、火を囲みながら塾生の悩みを猪木塾長が聞く人生相談タイムとなり、大トリは気合の闘魂注入、人生初の闘魂ビンタを食らった感激の一夜でした。
ビッグ・ベア・レイクで迎えた朝は屋外で運動、ここではこの頃猪木さんが練習に愛用していた通称・闘魂棒が活躍しました。
闘魂棒とは全長2m近くある木の棒で、これを使って様々なストレッチ運動を行うのです。
現役時代から走り込みが大好きな猪木さんでしたが、膝を痛めてそれが出来なくなりたまたまロスの海岸で棒を使ってストレッチをしていた現地の人と知り合ってこのトレーニング法を編み出したのだそうです。但し持ち運びが大変で、この時だけでなくその後の猪木塾でも毎回この棒を4本も空輸して来た近ツリの永崎さんのご苦労な事…本当に毎回飛行機に乗せるのも大変そうでした。
塾長の指導下、闘魂棒トレーニングに初挑戦しましたが慣れない動きに悪戦苦闘、確か棒の一端を壁際と床下の間の角に押し当ててまたがる運動をしていたら塾長から「何だよ、へっぴり腰だな。」と笑われました(笑)。しかしなかなか具合が良く、帰国後自分でもやってみたいと思っていましたが、適した棒がなかなか見つからないのとあればあったで置き場所の問題もあり、結局断念してしまいました。
この後は室内に場所を移し、マット上での運動でしたが思い出すと皆さん、猪木さんにグラウンドコブラやスリーパーホールドをかけて貰ったりと遊んでいたような(笑)…。
この時、私はツアーに途中から合流した小川直也さんに払い腰で投げて貰いました。
勿論手加減はしてくださっているのでしょうが、一瞬宙に舞いマットの上に綺麗に落ちて痛かった事…流石、世界を制した投げは強烈です。
最後に猪木さんが「身体の調子悪い者は並べ。」と言い出しました。
当時、肩こりや頭痛に悩まされていた私は願ったり叶ったりでしたが、猪木さんがやってくれたのは首の牽引でした。
首に爆弾を抱えた三沢光晴選手が試合後の控え室で若手選手によってタオルを使って首を引っ張られている映像を観た時、凄い荒療治だなと思ったものですが、まさか自分が体験する事になるとは…。
先ず仰向けに寝転がり(写真には写っていませんが)小川さんが馬乗りになって上半身を固定、猪木さんが私の顎にタオルを当て引っ張った瞬間、まるで落雷を受けたかのように脳天から背骨を通り尾骶骨までビリビリビリッと電流が走り、一瞬首が抜けたかと思った程の凄い衝撃でした。
あまりのショックの中、猪木さんに「ありがとうございます!」と礼を言うのが精一杯でしたが、少し経つと気のせいか身体がホワ~ンと楽になって来た気が…。
何年前だったか、肩こり治療の先生のところに通っていた時にその時の話をすると「一歩間違うとそれ、殺人でっせ!」と超ドン引き、「もしかして今田宮さんが調子悪いの、それが原因かもしれませんよ。」と脅されました(笑)。
貴重な体験でしたが、もしもう一回チャンスがあっても止めておきます(苦笑)。
そしてこの日、実はもう一つ、貴重かつ不思議な体験をしました…。
(次回へ続く)