FILE No. 804 「正義は勝つ(7)」

「正義は勝つ(7)」

(前回からの続き)

弊社がF社の商品を販売している先に同じ商品の安値が、それもF社の代理店会にすら属していない小規模問屋から出て来るトラブルが何度かあり、私の不信感は募る一方でしたが、2005年にある大口ユーザーに納品していたF社商品の大口案件を同じ商品で他社から安い価格を出されて商流が変更になった時、私の我慢も限界に来ました。
この時のF社の言い訳も例によって「ユーザー・チョイス」でしたが、先方の役員が来社した時に代理店会の退会を申し出ました。
相手はふんぞり返るように「うちもこれから東証一部に行く(当時)のにそんな時期に波風立てない方が宜しいでっせ。」と自慢話に終始、勿論お詫びの言葉は一言もありませんでした。まあ元々悪いと思っていないのですから当然と言えば当然ですが、この人たちは本当に商売が下手だなと呆れました。
もし私が逆の立場、メーカーの営業だったらここは下手(したて)に出て「この度は社長のところに大変申し訳ない事をしました。御社は大事な取り組み先ですし、この埋め合わせは必ずしますので退会だけは考え直してください。」と徹底的に持ち上げます。
中小企業の社長、包材屋なんて単純なもの(笑)、腹の中で赤い舌を出しながら男芸者に徹してヨイヨイしていれば良いのです(笑)。
大事な仕入先である事には変わりないし、もしそこまで言われていたら私も多少軟化し退会は思いとどまっていたかもしれません。しかし常日頃から「売ってやっている」的な態度を押し出して来るので、根本的に私の商売の理念と嚙み合わないのです。
後日正式に退会届をしたためて先方に郵送したら、それを持参して私を飛ばし会長に会いに来たので余計にカチンと来ました。私と話しても無駄と思ったのでしょうが、何処までもこちらの怒りの火に油を注いでくださいます(苦笑)。
会長は「ほとぼりが冷めるまでしばらく欠席していればいいんじゃ」と私を説得にかかりましたが、おいおい、本来こちらが被害者なのにそれではまるでこっちが悪い事をしたみたいじゃないですか、それに会員(それも役員)でありながら毎回会合をすっぽかすのはかえって失礼な話です。
これはかなり年月が過ぎてから知ったのですが、私が言う事を聞かないとなると会長はなんと、シーピー化成の上野専務に「うちの馬鹿息子がFの会を辞めると言っている、とんでもない奴だ、引き留めてくれ!」と依頼したそうです。お~い、競合するメーカーに頼んでどうするの(笑)!?上野専務と飲むと未だにこの話を持ち出されます(笑)。

無事に退会届は受理され、私としては退会理由も明確にして円満に辞めたつもりでしたが、先方はプライドを傷つけられたと思ったのか、翌2006年、とんでもない報復?に出て来ました。
忘れもしない2月25日、当時の弊社ナンバーワン得意先であるスーパーのT専務から呼び出しを受けました。こう言うと失礼ですが、このT専務は業者に対してかなりえげつないやり方をすると業界でも評判の人で、それこそうちも長年に渡って手を焼いていましたので、今回もろくな話じゃないだろうなと戦々恐々としながら訪ねました。
そして相手の口から出たのは「3月20日を持ってタミヤとの取り引きを終了、F社と直接取り引きをする」と言う予想をはるかに上回る大型爆弾でした。
「うちは東京に本部のあるボランタリー・チェーンに加盟する事になった。その主力会員企業のA社(東京)がF社と直接取り引きをしており、それに倣う事にした。」と言う大義名分で交渉の余地は全くないとの非情な通告、「タミヤさんとも色々あったけど最後は綺麗に別れようや。」と言われました。
実は私がまだタミヤに入社するより遥か昔、このスーパーの信用不安の噂が業界を駆け巡り、当時のオーナーが状況説明と今後の支援をお願いする為、業者を1社1社回ったと聞きました。その時大手の食品問屋や一部の食品メーカーは「逃げた」そうですが、弊社は支援と協力を続け、オーナーはその後も「うちがこうして商売が出来るのもタミヤさんのおかげ」と口にしてくれました。別に昔の恩を着せるわけではないですが、そんな経緯がある相手に対してあまりに一方的で非情なやり方です。
T専務が最後にぽろっと「タミヤさんもメーカーさんと喧嘩したらあかんわ。」と口を滑らせたのを聞いた時、はめられたと思いました。
当時は売り上げ・利益ともこの得意先の依存比率がかなり高かったのでたちまち赤字転落は必至…会社が潰れる!?と言う恐怖感と持って行き場のない怒りと悔しさ、様々な感情が入り乱れ、帰り道でぽろぽろと涙が止まらなくなりました。
T専務がタミヤに引導を渡した後でF社が話に来ると言うシナリオが出来ていたのでしょう、翌日早速同社の部長が訪ねて来ると、これまたシナリオ通り「お聞き及びと思いますが、先方がボランタリーチェーンに加盟したのを機に当社と直接取り引きがしたいと申し出があり、当社としてこれを受ける事になりました。」と事務的に語ると逃げるように帰って行きました。ある社員が「例え100歩譲ってそうであっても、先方から話があった段階でまずうちに相談するのが筋ではないか。」と怒っていましたが、そんな正論が通じる相手なら最初からこんな事にはなっていません。
世間体を考えてユーザー・チョイスを強調していましたが、別のメーカーからはある所でF社の営業が「あれは見せしめです。」と吹聴していたと言う話も伝わって来ました。
もはや逆転の目はありませんが、こちらの体制が整うまでせめて1~2か月でも期限を延長してもらおうとT専務に電話したところ、面談を拒否されました。
その時に彼が言った言葉は今も忘れません。
「こういう事は水面下でこっそりやるものやから本当は3月20日(取引停止日)の一週間ぐらい前に言うつもりやったんや。」
「うちは潰れたと思って諦めたらよろしいやろ。」
突如訪れた会社始まって以来最大の危機、この時ばかりは私も本当に倒産を覚悟しました…。

(次回へ続く)