FILE No. 884 「アイアンクロー」

「アイアンクロー」

「アイアンクロー」待望の日本公開

これまで数十年レベルの大昔の作品ばかり扱ってきた私の映画&ドラマ紹介シリーズ、今回はなんと!先月公開されたばかりの最新作の登場で、楽しみにしていたアメリカ映画「アイアンクロー」(ショーン・ダーキン監督、ザック・エフロン主演)を初日(4月5日)に観に行って来ました。
あっ、私は試写会でタダ見した映画の感想(駄文)を誰も読まない自分のブログにアップして映画評論家を自称している何処かのアホとは違いますので(爆笑)。

“鉄の爪”の異名で日米を股にかけプロレスラーとして、そして地元テキサス州ダラスでプロモーターとしても大成功したフリッツ・フォン・エリックは生涯で6人の息子に恵まれました。フリッツは自身が果たせなかったNWA世界王者(当時世界最高峰と言われた)の夢を息子たちに託し現役を引退しプロモート業に専念しましたが、その後一家を次々と襲った数々の悲劇、この映画は実話に基づきその様子を克明に描いています。
その全貌は今から12年前のブログに詳しく記していますので、是非そちらをお読みください。(File No.265,266 「鉄の爪一家の悲劇」参照)

時系列で並べると

1959年 長男 ジャックjrが事故死(感電死) (享年6歳)

1984年2月10日 三男 デビッド・フォン・エリックが全日本プロレス参戦の為来日直後、ホテルの部屋で急性ドラッグ中毒死 (享年25歳)

1987年4月12日 五男 マイク・フォン・エリックが睡眠薬自殺 (享年23歳)

1991年9月12日 六男 クリス・フォン・エリックがピストル自殺 (享年21歳)

1993年2月18日 四男 ケリー・フォン・エリックがピストル自殺 (享年33歳)

次男のケビン・フォン・エリックが今も健在な事がせめてもの救いですが、6兄弟中5人までが若くして非業の死を遂げる(しかも3人が自殺!)と言う不幸、彼らは呪われた一家と揶揄されました。古いプロレスファンには周知の事実だったものの、まさかこの事が映画になるとは夢にも思っていませんでした(*但し尺の都合で6男クリスのみ登場せず、エリック一家は5兄弟の設定)。

鉄の爪、エリック一家の伝説を悲劇を再現

作品は唯一生き残った次男ケビンを主役に、一家の辿った軌跡が赤裸々と描かれていましたが、これまで私が観て来た、プロレスを扱った映画(実録ドキュメンタリー、フィクション問わず)の中でも一番面白かったです。
ケビンを演じたザック・エフロン、さらにエリック一家に留まらずブルーザー・ブロディ、ハーリー・レイス、リック・フレアー、ザ・ファビュラス・フリーバーズ(テリー・ゴディ、マイケル・ヘイズ、バディ・ロバーツ)と言った日本でもお馴染みの豪華メンバーを演じた俳優さんたちがその鍛え抜かれた肉体含め、試合のシーンも見事な再現ぶりで目を見張りました。
三男のデビッドは急死しなければ当時、世界王者の最有力候補と言われており、四男のケリーは兄弟の中で来日回数が最も多く日本で人気がありました。デビッドやケリーと比較すると実質的な長男(厳密には次男だが長男が幼い頃亡くなったので)のケビンは華がなく地味な職人タイプの印象、当時から弟たちをバックアップする姿はウルトラ兄弟の長男ゾフィのイメージ(笑)と思っていましたが、映画では彼が弟たちにジェラシーを感じ思い悩む心境もしっかり描かれていました。
あまりにも偉大な父親の後を継ぐ事の大変さはどの業界も同じ事(かくいう私も?笑)ですが、映画ではあたかも父・フリッツの過度な期待と重圧が息子たちを死に追いやったような印象で、些かフリッツが気の毒でした。ケリーは薬物不法所持で実刑判決を受けた翌日にピストル自殺、映画ではケリーの遺体を発見したケビンが激高して父フリッツに殴りかかるシーンがありますが、これは流石にフィクションでしょう。
公式パンフレットにはケビンのこんな談話が掲載されていました。
「父からのプレッシャーではない。私たちは強い愛情で結ばれていた。それが問題だったんだ。愛だったんだよ、ケリーが面倒な事になった時、あいつはフォン・エリックの名前に傷をつけてしまったと感じたんだ。ケリーは自分一人で背負い込んだ。家族を失望させたと感じた他の兄弟と同じように内面が崩壊してしまったんだ。」

映画のラストは全ての兄弟を失った傷心のケビンが現役を引退、団体も売却してプロレス界と決別、家族と共に過ごす様子が描かれ、エンディングには現在の本物のケビンが4人の子供と13人の孫に囲まれた集合写真が紹介され、救われた気持ちになりました。
この映画に興味を示すのは古き良き時代の80年代のプロレスを知っている人たちでしょうが、私としてはそれこそプロレスを全く知らない人に是非観て頂きたいです。
まさに「事実は小説より奇なり」、この物語が実話(をベースとしている)と知れば驚愕する事でしょう。

前回のブログに記しましたが、2012年に来日したケビン(現在のところ最後の来日)は週刊プロレスのインタビューを受けています。
(父親のプレッシャー)
「みんなそう言うがそれはなかった。父を誇りに思っていたし父のようになりたくて自分の意志でこの道を選んだ。父も私たちにプレッシャーをかけるような事はしなかったよ。」
(相次ぐ兄弟の死)
「みんな恐れて聞いてこなかったけど、弟たちは素晴らしい人間ばかりで私達の絆は本当に深かった。若くして亡くなったのは悲しいけれど、短い人生を精一杯生きたからね。
呪われた一家と言われた事は勿論知っていたし、直接言われた事もあるよ。ある記者には「次は君が死ぬのか?怖くないの?」って聞かれたよ。私だっていつか死ぬ。でも天命を全うしてあの世に行ったらまた父や弟たちと会える。そうしたらまたタッグが組めるよ。」
数々の苦難を乗り越え前向きに生きるケビンの言葉に涙が出そうになったものです。
早くに旅立った家族の分までケビンには元気で長生きして欲しいし、いつの日か再来日を期待しています。

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