FILE No.838 「BIを倒した男たち(2)」

「BIを倒した男たち(2)」

(前回からの続き)

友人が出題した難問、ジャイアント馬場&アントニオ猪木、両者からフォールまたはギブアップ勝ちした選手5人(新日本&全日本旗揚げ以降)に悪戦苦闘の私…その中の一人、タイガー・ジェット・シンは前回記載の通り猪木から8回も勝利し、全日本移籍後は馬場から2回フォール勝ちしています。
最初が82年7月13日、京都・宮津での馬場&鶴田 VS シン&キラー・トーア・カマタの一戦ですが、この時期馬場と鶴田の師弟コンビはインタータッグ王者、この3日後の16日の富山でシン&カマタとの防衛戦が決まっていました。つまりこの日はノンタイトル同一カードの前哨戦でしたが、ここで馬場はシンのサーベル攻撃に不覚のフォール負けを喫しました(7分41秒 体固め)。3日後の本番を盛り上げる絶妙のマッチメイクと言いたいところですがこの日はノーテレビのうえSNSの無い時代ですから馬場の負けを知っているのは毎日東スポをチェックしているマニアのみ、おまけに本番の富山のテレビ実況でも3日前の事には全く触れないのですから、こういうところが全日本は下手です(苦笑)。因みにタイトル戦では馬場がカマタをフォール、師弟コンビが防衛を果たしました。

その3年後の85年5月17日、北海道・旭川でのシリーズ開幕戦での馬場&石川 VS シン&マリオ・ミラノのタッグ戦でシンは馬場から2度目のフォールを奪いましたが、こちらはテレビマッチだったので、ロープに振ってカウンターのコブラクロー(毒蛇絞め)による完璧な3カウントだったのをはっきり覚えています(6分59秒)。

BIを倒した男、お次に登場はビル・ロビンソンで、プロレス史に残る名勝負(私にとって生涯のベストバウト!)、猪木とのNWF戦(75年12月11日 蔵前)の1本目で42分53秒、逆さ押さえ込みで猪木をフォールしています。
2本目はタイムアップ寸前に猪木が奇跡の卍固めでタイスコアに持ち込み、3本目は時間が無くなってドローとなりましたが、結局猪木との試合はこれ一度きりとなりました。
翌年全日本に移籍したロビンソンは同じ蔵前で今度は馬場のPWFに挑戦(7月24日)、2本目に逆片エビ固めで馬場からギブアップを奪っていますが(6分8秒)、1本目と3本目に2フォールを奪われる完敗を喫し、「猪木は引き分けなのに馬場に負けやがって!」と新日本ファンの大ヒンシュクを買いました(苦笑)。
殆ど知られていませんが実はこの4日後のシリーズ最終戦、水戸での6人タッグ戦(馬場&デストロイヤー&ヒロ・マツダ VS ロビンソン&アル・マドリル&スコット・ケーシー)の2本目にロビンソンはワンハンドバックブリーカーで馬場にフォール勝ちしています(4分15秒 体固め)。

4人目はその馬場に一度はNWA世界王座を明け渡し、一週間で取り返したジャック・ブリスコですが、実は一度だけとなった新日本の参戦時に猪木からも3カウントを奪っていました。79年5月4日、岡山での猪木&坂口 VS ブリスコ&ハンセンの3本目がそれですが(ダブルアームスープレックスから1分9秒 体固め)、このタッグ戦はむしろ2本目のハンセンのラリアットで坂口が喉から血を吐くシーンが強烈なインパクトでした。

BIを倒した男…天龍、シン、ロビンソン、ブリスコとそうそうたる豪華な顔ぶれが続きますが、最後の一人がどうしてもわかりませんでした。
出題者から「小物(失礼!)です」「弟もレスラーで素顔で新日本に来日」といくつか助け舟のヒントを頂きましたが、前回書いたようにこの時の私は飲み会の帰りで酔いが残っており脳が働かず(言い訳!)遂にギブアップ(涙)…なんと正解はマヌエル・ソトでした。 それって誰や~!? マジで私ですら名前に聞き覚えがあるような、ないようなレベルの無名選手(またも失礼!)、これはシラフでも正解は無理だったでしょう。
昨年、ペッパー・マーチンの回(File No.783786 参照)でもご協力頂いた昭和プロレス研究家のミック博士の作成したプロフィールによると、プエルトリコ出身で本名のマヌエル・ソト以外にサイクロン・ソト、マスクを被ったザ・ブラックデビル名義で計4回来日経験ありとの事でしたが、米マットでもアメリカでも前座・中堅の域を出ず、この人が馬場と猪木に勝利しているとはとても信じられませんでした。

問題の試合、先ずは73年4月12日の宮城、サイクロン・ソトのリングネームで新日本に来日したソトは猪木とシングル対決、ここでシリーズのエース格外国人ジャン・ウイルキンスのアシストを得て猪木から大金星をゲットしていました(11分29秒 体固め)!!
このシリーズ中、猪木とソトはこの日以外にも2回シングルで戦っていますが、いずれも10分前後で猪木が勝利しており本来なら安全パイの相手、インターフェアがあったとは言えこの日は大不覚でした。
因みに新日本時代の猪木のシングルマッチで完全勝利(反則、リングアウト勝ちを除外)しているのはカール・ゴッチ、アンドレ・ザ・ジャイアント、キラー・カール・クラップ、タイガー・ジェット・シン、ハルク・ホーガン、ベイダー、長州力、ショータ・チョチョシビリ、天龍源一郎にソトを加えた10人のみです。

そしてこの2年後の75年、今度は全日本にマスクマンのブラックデビル(明石家さんまでなくソトが元祖!笑)として来日したソトは5月23日の後楽園でのタッグマッチ(馬場&鶴田 VS ブラックデビル&スコット・ケーシー)の2本目、覆面に凶器を仕込む古典的反則の頭突きで馬場にフォール勝ち(3分12秒 体固め)、3本目には逆に馬場にフォールを取り返されましたが、とにかくこれでBIの二人からフォール勝ちと言う大偉業を成し遂げたのです!!
これ程の大仕事なのに話題にならなかったのはソトがあまりに無名だったから?否、逆に無名の中堅だからこそ大金星と騒がれそうなものですが、何分にも乱入や凶器によるフロック、早い話がまぐれの勝利だった事もありさして注目もされず、不幸な事に映像も現存しない為後世に伝わる事もありませんでした。

最後にまとめるとクイズの正解、ジャイアント馬場&アントニオ猪木の両者からフォール、ギブアップを奪った男たちとは天龍源一郎、タイガー・ジェット・シン、ジャック・ブリスコ、ビル・ロビンソン、そしてマヌエル・ソトの5人のみ・・・天龍とシンは健在もロビンソンとブリスコは既に鬼籍に入り、ソトに至ってはご存命なのかどうかすらわかりませんが、もし今もお元気ならお会いしてお話を聞きたいものです。
改めて大偉業を成し遂げた5人の男たちに乾杯…。