FILE No.839 「残存者利益」

「残存者利益」

昨年、「プロレス週刊誌戦争」を取り上げた際に「先行者利益」と言うビジネス用語を使いました(File No.779782参照)。
月刊が常識だったプロレス雑誌の世界でベースボールマガジン社の「月刊プロレス」が他社に先駆けて世界初のプロレス週刊誌、「週刊プロレス」を創刊する大博打に出て他誌を圧倒したのはまさしく先行者利益、「先にやった者勝ち」の典型例でしたが、今回はその反意語とも言える「残存者利益」をご紹介します。
いや~、相変わらずためになりますこのブログは(笑)。

「残存者利益」とは「過当競争や収縮傾向にある市場において、競争相手が撤退した後、生き残った企業のみが市場を独占する事で得られる利益」を指します。
私がこの言葉を初めて耳にしたのはもう20年以上も前、リスパックさんのトップステージ会の総会に出席した時でした。お名前は忘れてしまったのですが、ゲスト講演の講師の先生からこの言葉が飛び出し、その事例として何処かの町での書店の話を挙げていました。

「ある町に3軒の書店があり、それぞれに苦しい経営をしていた。→ とうとう3軒のうち2軒がギブアップし閉店、書店は1軒のみとなった。→ 他に店が無いので町民は本を買いたい時は自動的にその1軒に行くようになった。→ その店は売り上げが倍増、これまでの赤字から一転、儲かるようになった。」…ざっとこんな話で、その後に「ですから皆さん、何としても生き残ってください!」と強調していました。
単純な私などすっかり感化されましたが(笑)、出席していた同業の方々も同じだったようで、後日我が社が当時加入していた流通システム研究会(2013年に解散)の会合に行ったら、皆さんやたらと「残存者利益」を連発していました(笑)。

ビジネス関連の記事で「残存者利益」の代表例としてよく紹介されるのがレコード針の老舗メーカーのナガオカです。
創業83年と歴史のある会社で、私も学生時代レコード屋通いをしていた頃、同社のレコード針を何度か購入した事がありますが、ご存じのように80年代後半~90年代にかけてアナログからデジタルへと時代は大変革、CDが主流となりレコードはすっかり姿を消しました。
当然、これまでレコード針を製造していた会社は次々と撤退、業界最大手だったナガオカの売り上げも最盛期の10分の1まで低下し、一時期は存続の危機に立たされました。
それでもレコードの愛好家は一定数根強く残り、他ではレコード針が入手出来なくなった為ナガオカに注文が、それも日本だけで無く世界中から相次ぐようになりました。
しかもライバルが不在なので価格競争も無く、現在では同社は世界のシェアの90%を占める超優良企業に生まれ変わったのです。

この話を聞いて、実は我が業界でも似たような事例があったのを思い出しました。
我が社も一応(苦笑)仕入れのある株式会社ニシキさんはインジェクション成形(射出成形)による寿司や刺身、総菜用の容器を製造されています。インジェクション容器と言っても一般の方にはどんなものかピンと来ないでしょうが、よく梅干しとか珍味が入っているガラスのように硬質な、使い捨てにするのは勿体ないプラスチック容器と言えばイメージが湧くでしょうか。我々の主力商品であるエフピコやシーピー化成などのスーパー向け食品容器(主に発泡素材の汎用性ある物)とは価格が全く違う為、元々マーケットも非常に小さい言わば隙間商品でしたが、この10~20年の間に原油価格高騰による容器業界全体の値上げ、一方で少しでも資材コストを抑えたい末端ユーザーの事情、極めつけは容器の重量によって負担金が決まる容器リサイクル法の施行により、高いうえに重たいニシキさんの商品は敬遠され、前述のエフピコなどの軽量素材の容器にシェアを奪われました。

私もよく同社の営業の方を「あ~あ可哀想に、ニシキさん終わったね。」と今思えば思いきり失礼な事を言ってからかっていましたが(苦笑)ところがどっこい、確かにマーケットそのものは大幅に縮小したものの、売り場の差別化の為高級感を重視するニーズは根強く残り、しかも軽量容器とは最初から全く価格が違うので、会社としての売り上げは昔の数分の一になってもかえって大きな利益を生むようになったそうです。

冒頭のプロレス業界の話に戻ると、今や正確な数が誰も把握出来ない程団体が乱立、法人化もしていない、団体と呼べないレベルのインディも多数で、その数は減るどころか今でも増加気味、こんな業界も非常にレアで、残存者利益どころの話ではありません。
では数が少なくなれば利益が増えるのか?と言われればそう単純な話でも無く、80年代前半、新日本プロレスと全日本プロレスしか無かった時代(全日本女子プロレスを除く)、馬場さんが「日本にプロレスの会社はたった2つしか無いんだよ。それなのに全然儲からないんだ。」とぼやいていたと聞いた事があります。
う~ん、この時期新日本の方はブームで大盛況だったので、これは経営上の問題と思うのですが(苦笑)。馬場さんの名誉の為に付け加えておくと、90年代には様々な経営改革により赤字からV字回復を成し遂げましたが、この頃は既に他団体時代に突入、つまり皮肉にも競争相手が増えてから儲かるようになったのですから、残存者利益どころか真逆です(笑)。

さて、講演を聴いて以来、今がどんなに苦しくても何としても生き残らなければならない、生き残りさえすればその先には大きな花が咲くと薔薇色の未来を信じ歯を食いしばって来ましたが、ある時それが単なる幻想に過ぎない事に気が付きました(笑)。
新規参入する物好き(笑)はそうそういませんが、何故か同業の数があまり減らず過当競争が続く我が業界、「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」なる本がありましたが、私に言わせれば「包材屋はなぜ潰れないのか?」(笑)。 ほんと、末端ユーザーや他の業界(但しプロレス団体は除く)があれだけ整理淘汰と再編が顕著なのを思えば不思議で仕方がありません。潰れないと言う事はようは皆さんそれなりに儲かっていると言う事でしょう。いずれにせよ数が減らないのですから残存者利益など期待できるはずもないのです(涙)。

まさしく生きるも地獄、死ぬも地獄…それでも会社は何としてでも生き残らなければならないのです。残存者利益が享受できるわずかな可能性を信じて(未練がましい!笑)とにかく頑張ります!!