FILE No. 808 「猿の軍団」
「猿の軍団」
地球への帰還を目指すロケットが機体トラブルに見舞われ不時着したのは空気や水があり緑に囲まれた非常に地球に酷似した星、ただ一つ地球との違いは、そこは猿が人間を支配する惑星だった事…主人公の宇宙飛行士は猿たちと激しい戦いを繰り広げ、最後に馬で海岸を走っていた時に見たのはニューヨークの自由の女神の残骸!そう、実はここは未来の地球だったのです!!
1968年の映画「猿の惑星」のあまりに有名なラストシーン、実際私がテレビで観たのは中学生の時の何度目かの放送でしたが、その衝撃は今も印象に残っています。
同作品が1973年にテレビで初放送された時の視聴率は驚異の37%だったそうで、翌74年、TBS系・日曜日夜19時半の30分枠でもろにその影響を受けた「SFドラマ 猿の軍団」(1974年10月6日~75年3月30日、全26話)がスタートしました。
製作は我らが円谷プロダクションでしたが、思えばこの頃の同プロは看板番組であるウルトラシリーズが同じ時期に放送していた「ウルトラマンレオ」
(FILE No.614,615,616 参照)を最後に幕を下ろす事が決まっており、新しい柱を探す為の試行錯誤の模索期でした。
低温生化学研究所に勤める泉和子先生(演・徳永れい子さん)が見学に訪れた子供2人を相手にコールドスリープカプセルの説明をしている時突如大地震が発生、危険を避ける為3人は装置の中に隠れますが、はずみでスイッチが入ってしまい、3人が目を覚ましたのは西暦3713年(!)の未来、しかもそこは猿が人間のように生活をしている世界でした。但し映画「猿の惑星」とは違い、ここでは完全に人間が死に絶えており、登場するのは現代から来た3人の他には家族を猿に殺され小さな頃から一人で猿と戦い続けている未来の青年ゴード(演、潮哲也さん)のみでした(第2話から参加)。
果たして、何故人間が滅亡して猿が取って代わったのか?
自分たち以外に生き残っている人間はいないのか?
そして泉先生たちは現代にもう戻れないのか?…様々な謎を解明する為、4人が旅を続けて行くのがストーリーの骨子となっていますが、実は猿の世界でも人間を保護し共存すべきと考える平和主義のハト派(主にゴリラ)と、人間は最後の一人まで抹殺すべきと主張するタカ派(チンパンジー)に分かれており(実際にゴリラは見た目と違い草食系で大人しくチンパンジーは凶暴と言う特性を活かした設定)全編を通じ猿と戦う一方、猿との心温まる交流も描かれています。
全ての謎が明かされる最終回、4人は真実を知る、そして全ての元凶とも言うべきユーコム(ユニバーサル・エコシステム・コントロール・コンピューター=地球管理電子頭脳)に辿り着きます。
ユーコムは西暦2530年、電子工学の進歩によって人間によって作られ、地球を監視し地球を劣悪な状態にする条件の排除を続けていましたが、ある時無益な争いをする人間こそが地球にとって最大の癌との結論に至りました。
ユーコムによる産児制限によって急速に赤ん坊の数が減る一方各地で猿が繁殖、長い年月の末、人間は滅亡し猿の世界が構築されたのです。
ユーコムは地球に現存する人間はおまえたち4人だけと宣告し、この世界で猿と共存していく事は不可能につき遠い未来へ行くか他の惑星に行くかの選択を命じました。
今よりさらに遠い未来であっても、そこが地球ならば他の星に行くよりは生きられる可能性があると4人は苦渋の決断で未来行きを決定、ユーコムが用意したコールドスリープ装置に入り眠りに落ちます。
そして泉先生ら3人が目を覚ますと、そこは自分たちが元いた現代でした。
周りの話では3人が大地震によってカプセルごと地中に閉じ込められていたのは7日間…では猿の世界で過ごしたこの半年間は悪夢だったのでしょうか?
しかしカプセルのゲージには西暦3714と言う数字、そして現代科学では絶対不可能な超低温が設定されていました。未来に向かうべきカプセルが超低温による超伝動作用によってタイムマシンとなり過去に戻ったのです。但しカプセル内から見つかったのは3人だけで、そこにゴードの姿はありませんでした。彼だけは時間軸が違う未来人だったのでずれが生じてしまい、何処か別の次元に飛ばされてしまったのです。
ラストは野猿公園に出かけた3人が、ゴードに瓜二つの飼育員(他人の空似)を見かけたシーンと、原作者(小松左京、田中光二、豊田有恒=SF界の大御所)からの「すべての生き物はそれぞれの命を精一杯に生きる権利がある。」と言うメッセージで幕を閉じます…。
当時、裏番組にはアニメ「アルプスの少女ハイジ」や「宇宙戦艦ヤマト」があり、実は私も「ハイジ」は全話観ました。調べてみると「ハイジ」の最終回が74年12月29日(この日「猿の軍団」は第13話)、従って私は翌年から「猿の軍団」(第14話~)にチャンネルを合わせた事になりますが、とにかく最初は不思議なドラマと言うのが第一印象でした。
裏番組が強力だったので視聴率的には大苦戦、もっとも「宇宙戦艦ヤマト」(第1作)も同様だったそうですが、皆様ご存じのようにこの後「ヤマト」は映画化や続編などの大ブーム、一方「猿の軍団」は私が知る限り再放送の機会すら無く、大きく明暗を分けました。
でも考えてみれば「ヤマト」や「ハイジ」は後にいくらでも観られましたが、敢えて二度と観られない貴重映像を観ていた私は先見の明があったと自負しています(笑)。
本当にもう観られないのか、もう一度観たい! 長い間願い続けていましたが、21世紀になってようやくDVD化が実現、今回実に47年ぶり(1~13話に関しては初!)視聴できて涙ものでした。
それにしても日曜の夜19時半にこんなシリアスなドラマをよくやっていたなと改めて感心、カテゴリーとしては一応子供番組ですが、当時は殆ど理解出来ずに観ていたものです。
円谷プロの「限りなきチャレンジ魂」に敬意を表し、素晴らしい時代を経験出来た事に感謝です。